「一票の格差」と議員定数について

昨年衆院選の「一票の格差」に関して各地で違憲判決または違憲状態であるとの判決が出そろってきました。

そしてついに広島高裁では無効判決も出ることとなり、判決の重さが報じられています。

日本と同じ小選挙区制を取っている米国の下院選挙では「一票の格差」が生まれないよう、厳格に定められています。

3月7日の東京新聞社説が詳しく説明していますので見てみましょう。

一票の格差」を米国では、どうとらえているだろうか。実は日米の間では、雲泥の差がある。

米下院議員選挙で、ニュージャージー州の選挙区割りを違憲とした、一九八三年の米連邦最高裁判決がある。ある選挙区の投票価値を「一」とした場合、ある選挙区は「一・〇〇七」だった。わずか一・〇〇七倍の格差でさえ、連邦地裁は違憲と判断し、連邦最高裁もそれを支持したのだ。

ペンシルベニア州の判決も極めて興味深い。最大人口の選挙区と最小人口の差は、わずかに十九人だった。一票の格差は、一・〇〇〇〇二九倍にすぎないのに、連邦地裁に提訴された。

裁判所は州議会に対して、三週間以内に新たな区割り法を制定し、裁判所に提出するよう命じた。〇二年のことだ。そして、州議会は新たな区割り法をつくった。その結果は驚くべき内容だった。最大人口の選挙区と最小人口の選挙区の人口差は、たった一人になったのだ。

これらの事柄は今回の原告が、裁判所に提出した書面で明らかにしたことだ。同じ民主主義国家でありながら、「一票」の価値に対する意識も実態も、まるで異なっているわけだ。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013030702000139.html

昨年の衆院選では「一票の格差」最大が2.42倍ですので、それと比べると歴然たる差があります。


それでは人口比例に従い都道府県単位で定数を見直してみた場合どうなるでしょうか。

日経新聞政治部Twitterアカウントが以下のような計算をしていました。

この場合、選挙区あたりの有権者数最大は1区に減ってしまう鳥取県で480,924人、一方で最小は2区を維持する島根県で292,676人となるため、「一票の格差」は1.64倍まで抑えられます。


一票の格差」是正が遅々として進まない原因は定数削減とセットであることが大きいでしょう。

現在、選挙区の区割り見直しが進められていますが、選挙区内でも各党候補者の優勢な地域、不利な地域が分かれており、それが区割り見直しの進捗を遅らせています。

候補者にとっては区割り見直しが死活問題であるわけですが、定数減となればどう転んでもプラスになることは無いため、できれば避けたいのが本音でしょう。


ところで議員定数を減らすべきだという議論が昨今は支配的ですが、果たしてそうでしょうか。

この点に関して共産党佐々木憲昭衆議院議員が国会議員1人あたりの人口を各国と比較しています。

http://www.sasaki-kensho.jp/hunsenki/120125-105828.html

議員定数を減らすことで達成できる経費節減よりも、定数増によって国民一人一人の声を国政に届けられることの方がメリットとして大きいのではないかと思います。


それでは定数を増やす方向で「一票の格差」是正を考えてみましょう。

都道府県あたりの有権者数最小である鳥取県の2区を維持した場合、1区あたり有権者数最小は240,462人となります。

次に都道府県単位でできる限り定数を比例配分してみましょう。

現状(A) 私案(B) (B/A)
北海道 12 19 1.58
青森県 4 5 1.25
岩手県 4 5 1.25
宮城県 6 8 1.33
秋田県 3 4 1.33
山形県 3 4 1.33
福島県 5 7 1.40
茨城県 7 10 1.43
栃木県 5 7 1.40
群馬県 5 7 1.40
埼玉県 15 24 1.60
千葉県 13 21 1.62
東京都 25 45 1.80
神奈川県 18 31 1.72
新潟県 6 8 1.33
富山県 3 4 1.33
石川県 3 4 1.33
福井県 3 3 1.00
山梨県 3 3 1.00
長野県 5 7 1.40
岐阜県 5 7 1.40
静岡県 8 13 1.63
愛知県 15 24 1.60
三重県 5 6 1.20
滋賀県 4 5 1.25
京都府 6 9 1.50
大阪府 19 30 1.58
兵庫県 12 19 1.58
奈良県 4 5 1.25
和歌山県 3 3 1.00
鳥取県 2 2 1.00
島根県 2 2 1.00
岡山県 5 7 1.40
広島県 7 10 1.43
山口県 4 5 1.25
徳島県 3 3 1.00
香川県 3 3 1.00
愛媛県 4 5 1.25
高知県 3 3 1.00
福岡県 11 17 1.55
佐賀県 3 3 1.00
長崎県 4 5 1.25
熊本県 5 6 1.20
大分県 3 4 1.33
宮崎県 3 4 1.33
鹿児島県 5 6 1.20
沖縄県 4 5 1.25
合計 300 437 1.46

この場合の「一票の格差」最大は1.39倍となり(有権者数最大は島根県有権者数最小は高知県)、かなり改善されていると言えます。


ここからはかなり雑な計算になりますが、都道府県ごとの各党獲得議席に(B/A)を掛け合わせるとどうなるか計算してみました。

自民 民主 維新 公明 みんな 未来 社民 国民 無所属 合計
現状 238 (79.3%) 26 (8.7%) 14 (4.7%) 9 (3.0%) 4 (1.3%) 2 (0.7%) 1 (0.3%) 1 (0.3%) 5 (1.7%) 300 (100.0%)
私案 347 (79.4%) 38 (8.7%) 21 (4.8%) 15 (3.4%) 6 (1.3%) 2 (0.5%) 1 (0.2%) 1 (0.2%) 6 (1.4%) 437 (100.0%)

議席率だけ見ると現状とほとんど変わらない結果になりました。


さて無効判決を受けて選挙制度改革はどのように進むか注目です。